森保監督とSKY-HIの発言

2025年の春、サッカーと音楽という異なる分野で、奇しくも類似した構図の出来事が起きました。いずれも、被害の対象は女性。加害の疑いが持たれているのは、それぞれの業界で将来を嘱望されている若手の男性。そして、対応にあたったのは、組織のトップに立つ男性マネジメント――。

森保一監督とSKY-HI。どちらもリーダーとして敬意を集めてきた存在であり、これまでは「人を育てる」姿勢や誠実な言葉遣いで高い評価を得ていました。しかし今回、それぞれが語った「再チャレンジの場を与えるべき」「事実かどうかに関わらず処罰するのは望ましくない」といった発言に、多くの人々、特に女性たちや、ファン層から強い疑問の声が上がっています。

まずはそれぞれの発言を比較してみることにしましょう。

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森保一監督の発言

2025年5月、2026年ワールドカップに向けてアジア最終予選の日本代表メンバーが発表されました。2024年に不同意性交容疑で逮捕され不起訴となった佐野海舟選手も選ばれ、性加害疑惑のある人が代表でいいのかと反発が生じました。5月下旬の記者会見で森保監督がそれを「ミス」と発言したこともさらなる批判を呼ぶこととなりました。

以下は6月16日に再び行われた日本記者クラブでの会見を取材した記事の抜粋。

森保監督は、「苦しんでおられる方をより苦しめるようなことは、もちろんあってはいけない」と言いながらも、「何か罪を犯した、過ちを犯したことがある人も社会から葬り去っていいのかというところも同時に考えていいのではないか」と、前回の会見で述べた考えを繰り返した。そして「苦しんでおられる方々にできる限りのことはやっていこうと考えている」と言うのにとどめた。
前回の会見で森保監督は、佐野選手に対して「再チャレンジする道を家族として与えることの方がいいのではないか」とも言っていた。チームに迎え入れてやり直しの機会を与える場が必要だということなのだろう。
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/a38958e811d29bdf54e31a36236909f8397074ab?page=1

性被害に遭った女性の「その後」があまりに軽い…サッカー日本代表選手の「再チャレンジ」より優先すべきこと(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース
5月、2026年ワールドカップに向けてアジア最終予選の日本代表メンバーが発表された。2024年に不同意性交容疑で逮捕され不起訴となった佐野海舟選手も選ばれ、性加害疑惑のある人が代表でいいのかと反発が
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SKY-HIの発言

2025年4月23日発売の「週刊文春」および同電子版が、BE:FIRST・RYOKIにまつわる“結婚詐欺疑惑”を独占スクープしました。その件について同日BMSGは公式ウェブサイト上で事件についてコメントを出し、また4月30日にはCEOのSKY-HIがXにこの件に関して投稿しました。

以下はSKY-HIのXのポストより抜粋。

実際のところ、少なくとも交際関係にあった方がネガティブに思っているのですから現在に至ってもそれに配慮すべきだと思います。
また、個人間の交際中の出来事に対して公の場でやったやってないの水掛け論をすべきではないとも思っているので、襟を正して誠心誠意、活動を頑張るしかないと捉えています。
あまりに過剰な物には客観的な事実と擦り合わせた上で慎重に抗議するつもりですが、個人間の交際のもつれに過剰に反応したり出張ったりするというのも正しくないと思っています。
また、事実かそうでないかに関わらず結果として公に出たから、イメージを棄損したから即処罰、というのはマネジメントのあるべき姿ではないと考えておりますし、それよりもそうならない、2度と誰にもそうさせない事を頑張りたいです。

森保一監督とSKY-HIの発言の類似点

森保一監督とSKY-HIの発言における共通点をあげてみます。

✅ 1. 被害者への配慮を明言

• 森保監督:「苦しんでおられる方をより苦しめるようなことは、もちろんあってはいけない」
• SKY-HI:「少なくとも交際関係にあった方がネガティブに思っているのですから現在に至ってもそれに配慮すべき」

▶ 共通点:被害や苦しみを感じている側に対しての思いやりを前提にした発言であり、当事者の気持ちを軽視していない点。

✅ 2. 社会的制裁と更生のバランスを意識

• 森保監督:「何か罪を犯した、過ちを犯したことがある人も社会から葬り去っていいのか」
• SKY-HI:「事実かそうでないかに関わらず結果として公に出たから、イメージを棄損したから即処罰、というのはマネジメントのあるべき姿ではない」

▶ 共通点:過ちや疑惑がある人物に対して、一方的な排除や即時の断罪ではなく、社会や組織としてどう向き合うかを問う姿勢。

✅ 3. 再起・更生の機会を与える意義を強調

• 森保監督:「再チャレンジする道を家族として与えることの方がいいのではないか」
• SKY-HI:「襟を正して誠心誠意、活動を頑張るしかない」「2度と誰にもそうさせない事を頑張りたい」

▶ 共通点:本人の反省と更生の意思がある場合、それを支えること、再スタートの場を提供することを肯定的に捉えている。

✅ 4. 問題を私的なこととして公的な場での議論を回避

• 森保監督:「不起訴となった詳細は確認していない」「守秘義務があるため、佐野選手と被害女性の間でどんな話し合いがあったか、ヒアリングもしていない」
• SKY-HI:「個人間の交際中の出来事に対して公の場でやったやってないの水掛け論をすべきではない」

▶ 共通点:個人的なトラブルを公共の場でセンセーショナルに議論することには慎重であり、冷静な対応を優先する姿勢を見せている。

✅ 5. 組織としての責任感と未来志向

• 森保監督:「苦しんでおられる方々にできる限りのことはやっていこう」
• SKY-HI:「それよりもそうならない、2度と誰にもそうさせない事を頑張りたい」

▶ 共通点:問題が起きたこと自体よりも、それをきっかけに組織や社会をどう前進させるか、再発防止に注力しようとする姿勢。

被害女性への配慮の欠如

森保一監督とSKY-HIの発言は、加害を疑われた側への更生や再起の機会を語る一方で、被害を受けた、あるいは傷ついた女性たちへの具体的な寄り添いの姿勢や配慮の言葉が希薄と感じられます。その観点から両者の発言の問題点をまとめます。

✅ 1. 加害(とされる)男性への配慮が目立つ
• 両者とも、「再チャレンジ」「社会から葬り去るべきでない」など、当事者の更生や復帰の道に重きを置いた発言が中心。
• 一方で、被害を訴えた女性の声への具体的な理解・共感の表明や、そのケアに関する具体策はほとんど見られない。

▶ 問題点:被害を受けた側にとっては、「なぜ加害者側の未来ばかり語られるのか」という疑問や、社会的な孤立感を強める要因になりかねない。

✅ 2. 被害を受けた女性の「痛み」に対する共感や理解の言葉が不足
• 森保監督もSKY-HIも「苦しんでおられる方々への配慮」という抽象的な表現にとどまり、具体的な言葉で寄り添おうとする姿勢が伝わってこない。
• 特に性加害や女性差別の問題に対して、「構造的な視点」や「ジェンダーに対する認識」が欠けているように見える。

▶ 問題点:これは、近年高まるジェンダー意識や#MeToo運動以降の社会的潮流と齟齬をきたしており、特に若い世代の女性や人権意識の高い層には誤解や反発を招きやすい。

✅ 3. 「中立・公平」の名の下に、被害者の痛みが矮小化されるリスク
• 「やったやってないの水掛け論にすべきでない」「個人間のことだから」などの発言は、一見冷静で理性的に見えるが、結果的に加害を訴える側の声を遠ざける表現になってしまう。
• 被害者側にとっては、「声を上げても受け止めてもらえない」という二重の痛みを感じる可能性がある。

✅ 4. 信頼を得るには、加害側・被害側の「バランス」ではなく、まずは被害者への寄り添いが不可欠
• 社会全体が性加害や女性差別に対して敏感になっている中で、信頼されるリーダーやマネジメントに求められるのは、「バランス」ではなくまず被害を受けた側の立場に立った姿勢。
• 社会的に許容しがたい問題を犯した組織内の人物に対して、リーダーや組織はその人物に対し毅然とした処分を課すことが不可欠。

まとめ

森保監督やSKY-HIの発言には、一定の理性や再起への寛容さが見られる一方で、性加害や女性の人権問題に対する感度が不足しており、被害を受けた女性や社会的弱者への配慮が明確に欠けている印象を与えます。特に女性の立場に立った共感的な言葉や、組織としてどう支えるかの明言がないことで、男性部下に対して「甘い」、あるいは「加害を軽く扱っている」と受け止められても仕方のない内容になってしまっています。

たしかに、彼らの発言には「身内を見捨てない上司」としての情や懐の深さがにじんでいます。しかし同時に、被害を訴える女性の苦痛を矮小化し、声を上げることのハードルをさらに上げてしまうような無自覚な構造の片棒を担いでいるようにも見えるのです。

この構図は偶然ではありません。性加害やハラスメントの問題が次々と表面化するなか、業界の内外で求められているのは「沈黙の継承」ではなく、「構造の変革」。

このブログではSKY-HIが掲げるBMSGの理念に強く賛同していただけに、今回のRYOKIのスキャンダルへの会社の対応の甘さ・初動の遅さやまずさに大変失望しました。逆に妄信的に会社推しは危ないなと思い知らされたのは良かったのかもしれませんが。

来月7月はじめのワールドツアーオーラスでRYOKIは活動休止に入ります。そのタイミングで何らかのメッセージが会社から出されることを期待します。

追記

しかしあれですね、部下の不祥事に関するマネジメントサイドとしての発言があまりにも似通っていますね。マニュアルでもあるのでしょうか…?

BMSG
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